「高齢者の低強度歩行トレーニングが心拍変動に及ぼす影響」について学術大会で報告
8月31日、9月1日に北海道の札幌国際大学で開催された、日本健康行動科学会第23回学術大会で代表理事が大会長賞を受賞しました。演題のタイトルは「高齢者の低強度歩行トレーニングが心拍変動に及ぼす影響」です。
低負荷定常状態トレーニング(LISS: Low Intensity Steady State)として、30分間の快適なペースでの歩行を行うことで、心拍変動の増大効果が得られました。また、トレーニング効果は、運動機能が低下傾向にある高齢者ほど得られやすいことが分かりました。これらの結果から、短期間かつ低強度の歩行トレーニングが高齢者の自律神経活動バランスを改善する可能性が示唆されました。
図1はフレイル高齢者と健常高齢者の心拍変動のデータを示しています(今回の報告データではありません。また、データ公開はご本人から了解が得られています)。
心拍変動は、心拍間の時間の変動(RR間隔)を示す指標で、自律神経系(交感神経と副交感神経)の活動を反映します。RR間隔を、横軸にRR(n)、縦軸にRR(n+1)の点を描画するポアンカレプロット法で示しています。グラフ左側はフレイル高齢者、右側は健常高齢者です。フレイル高齢者は、心拍変動(心拍のゆらぎ)が少なく、健常高齢者は大きいことがわかります。
フレイル高齢者に見られる心拍変動の減少は、心不全でも見られるます。これは、心不全により自律神経のバランスが崩れるためです。具体的には、交感神経活動が亢進し、副交感神経活動の影響が弱まることが多く、この結果として心拍変動が減少します。
以前から、自律神経活動向上に対して、高強度インターバルトレーニング(HIIT: High Intensity Interval Training)が注目され、研究や臨床実践が行われています。HIITは高強度の運動であるものの、短時間で効果を得ることができ、優れたトレーニング方法です。一方、LISSはHIITと比較して目標心拍数が低く、最大心拍数の50%程度に保たれるため、高齢者でも安全に実施できるメリットがあります。しかし、LISSは低強度でペースが一定であるため、単調で退屈に感じられることもあります。そのため、友人や家族と会話をしながら歩行トレーニングを行うといった工夫が必要かもしれません。また、LISSはHIITよりもトレーニングに時間がかかるため、効率的にトレーニングを行いたい方には不向きな場合もあります。
高齢者の自律神経活動の低下は、健康や生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。この研究成果が高齢者の運動指導に役立つことを願っています。